ありていにいえば、自分がいまここにこうして在ることへの違和感・苛立(いらだ)ちといった、むろん若者にありがちではあれ、決して若者占有ではない相当に一般的な思いが、『キャッチャー』や『ナイン・ストーリーズ』のせわしない、自意識過剰気味の語りを通して伝わってくるのではないか。アイデンティティの確立などと世にいうが、アイデンティティとは要するにそういった違和感を覆い隠すための物語にすぎないとも言える。サリンジャーの登場人物たちは、そうした物語が今一つ定かでない人間として、無防備な姿をさらしている。いかに生きるべきか、という問いに対し彼らは何の答えも持っていない。そうした脆(もろ)さによって、ある種の普遍性を獲得している。
via www.asahi.com
生きる困難さについて。
コメント